糖尿病における運動療法とは│効果を引き出す運動のコツ|内科専門医師が配信

2021.08.20

カテゴリー: 糖尿病

糖尿病治療の方法の1つに運動療法があります。体を動かす習慣を生活に取り入れることで筋肉の活動力が高まると、さまざまなメリットを得られるようになります。

こちらでは糖尿病治療の運動療法について詳しく紹介していきます。糖尿病の症状改善、健康維持のためにぜひ参考にしてください。

糖尿病治療における運動療法とは

糖尿病治療では、食事療法や薬物療法と合わせて運動療法を取り入れることが望ましいと考えられています。

運動療法は糖尿病治療という目的のほかにも、さまざまなメリットが期待されます。

食事療法、薬物療法と並ぶ糖尿病治療の有力な手段

糖尿病の治療には食事療法や薬物療法に加え、日々の生活に運動を取り入れる運動療法も有効な手段として推奨されています。その理由は、2型糖尿病の原因の1つに運動不足が挙げられるからです。

運動をしてエネルギーを消費すると肥満の解消につながります。また、運動により筋肉の活動量が高まるとインスリンの働きが促進されるようになります。

1型糖尿病の場合はインスリンの作用機能の回復までは望めないものの、運動によって筋力が強化されたりストレスが解消されたりと、治療に取り入れるべき好ましい効果が期待できます。

運動療法を行うメリット

運動療法は糖尿病治療に有効であるだけでなく、健康維持にも幅広く役立つメリットがあります。以下は運動療法で期待できる効果の一例です。

食事療法や薬物療法と組み合わせて取り入れましょう。

<運動療法により期待される効果>

○がん予防
○動脈硬化予防
○骨粗鬆症予防
○血圧を下げる
○快眠
○健康的な体重・体型維持
○若々しさを保てる

糖尿病を改善する運動の効果

糖尿病治療において運動にはさまざまな効果が期待されます。どのような効果があるか知ることで、運動療法へのモチベーションもアップするでしょう。

ここでは糖尿病改善につながる運動の効果を見ていきます。

内臓脂肪をへらす

2型糖尿病患者には、偏った食生活や運動不足などが続いた結果、肥満になってしまった方が多く見られます。

また、太っていないように見えても、内臓脂肪が蓄積した「かくれ肥満」の可能性があります。

内臓脂肪が蓄積された状態はインスリンに対する反応が低下する「インスリン抵抗性」を生じさせるため、血糖値を下げるためのインスリンも多く必要になってしまうのです。

脂肪を減らすことができればインスリンの効きがよくなり、血糖値の上昇を抑えることにもつながるのです。皮下脂肪・内臓脂肪を減らすためにも、運動は欠かせない要素です。

食後の血糖上昇を抑制する

食後は血糖値が急激に上昇しやすくなるタイミングです。そのような血糖値の上昇を抑えるためにも、運動はとても効果的です。

運動にてブドウ糖や脂肪酸が消費されることで、血糖値の低下につながります。

運動におすすめのタイミングは食事から1時間ほどたった後です。食事で増えた血中のブドウ糖や脂肪酸の利用を促し、血糖値の急激な上昇を防ぐ効果が期待されます。

筋肉を増やす

血糖値の上昇は、ブドウ糖の合成によって誕生したグリコーゲン(貯蔵糖)の分解によっても起こります。

肝臓や筋肉に貯めこまれているグリコーゲンは、分解されてブドウ糖となり、血糖値を高めるために使われます。血糖値が低下している場合には問題ないのですが、糖尿病の場合はこれ以上の高血糖になるのを抑制しなければなりません。

ここで活躍するのがインスリンです。インスリンはブドウ糖の合成を促進し、グリコーゲンの分解を抑制してくれます。

そのほか、脂肪の合成・分解にもインスリンがかかわっています。インスリンが適切に作用していれば、血中のブドウ糖や脂肪酸が増えすぎることはありません。

一方、インスリンの働きが弱まってしまうと血中のブドウ糖が多くなりすぎてしまいます。この状態が高血糖です。高血糖が長期間続くと糖尿病を引き起こします。

インスリンの作用を適正に戻すためには筋肉量を増やすことが効果的です。運動により筋肉量が増えると血糖値低下につながります。

筋肉が増えてエネルギー消費量がアップすると、消費されるブドウ糖も増え、血中のブドウ糖が減っていくからです。

運動療法の具体的な方法は

運動療法は主に「有酸素運動」と「筋力トレーニング(レジスタンストレーニング)」に大別されます。これらの運動をバランス良く行うことで、健康維持に役立てていきましょう。

ご自身のライフスタイルに合わせ、楽しみながら続けられる運動から始めてみてください。

有酸素運動とは

有酸素運動とは、体内で酸素を使うことで糖や脂肪を燃焼させる運動のことです。日常生活で誰もが行っている歩行も、早歩きをすることで有酸素運動になります。

有酸素運動を効果的に行うためには、1回あたり20~40分の運動を1週間に3回以上続けましょう。

<主な有酸素運動>

○ジョギング
○ウォーキング
○スイミング
○エアロビクス
○サイクリング
○ラジオ体操
○テニス

筋力トレーニング(レジスタンストレーニング)とは

筋力トレーニング(レジスタンストレーニング)とは、筋肉に繰り返し抵抗をかけて鍛えることで、筋力を高める運動のことです。

運動によって基礎代謝が高まることで、エネルギーを消費しやすく肥満になりにくい体づくりにつながります。日常生活で行う階段の上り下りなどもトレーニングになります。

<主な筋力トレーニング>

○ダンベル運動
○腹筋
○腕立て伏せ
○スクワット

日常でできる運動療法はウォーキングがおすすめ

もともと運動が苦手な方は、運動療法と聞いて少し抵抗を感じてしまうかもしれません。そうであれば、日常生活に自然と取り入れられるウォーキングから始めてみるのがおすすめです。

ウォーキングで足腰を鍛え、年齢を重ねても運動を続けられる体づくりを目指しましょう。

効果的なウォーキングのコツ

ウォーキングの効果を高めるためには、正しい姿勢で歩くことが大切です。また、ウォーキングの際は通常の歩行よりもややスピードのある早歩きを心がけましょう。

歩きながら軽く息がはずむ程度の早歩きで、効果的な運動療法となります。

<ウォーキングフォームのポイント>

○肘を90°に曲げて、腕を大きく振る
※きちんと肘を曲げて体を動かすと、背中の筋肉を鍛えることにつながります。
○背筋を伸ばす
○歩幅は広めに
○前を見て歩く
○肩の力は抜く
○足はかかとから着地させる

運動時間の目安

糖尿病の予防や糖尿病の進行を抑えるためのウォーキングは、1週間に150分以上の運動時間を目安にしましょう。

ただし、運動不足による体力の問題がある方は、まずは60分以上を目標に定めウォーキングを取り入れてみてください。

運動はできるだけ毎日続けて行うことが大切です。習慣として楽しく体を動かしていきましょう。

小まめなウォーキングも合計すれば十分効果が得られる

日頃から仕事や家事などで忙しく、30分以上のまとまった時間をなかなか取れない方は、小まめに歩くことから始めてみましょう。

たとえば、通勤やちょっとした外出時に早歩きをすれば、10分間程度のウォーキングを行えます。買い物や犬の散歩でも同様です。

意識して階段を使うことや、自転車通勤への切り替えも運動療法につながります。

運動療法で気をつけるポイント

運動療法は糖尿病治療においてさまざまなメリットがありますが、注意すべきポイントもあります。

誤った方法で運動を続けたり、運動の内容が適していなかったりすると、かえって健康を損ねることにもつながりかねません。

運動療法を実践するうえで気をつけておくべきことを紹介していきます。

主治医に相談しましょう

場合によっては運動が禁止・制限されるケースもあるため、あらかじめ主治医に相談しておきましょう。下記は、運動療法を控えるべきケースの一例です。

<運動を禁止・制限したほうがいいケース>

○高血糖値
○脱水時
○腎臓の病気が進行しているとき
○重い心臓病
○骨や関節の病気
○糖尿病壊疽

食事療法と運動療法は2つをセット

運動療法を行う際は必ず食事療法と組み合わせましょう。運動を始めると食欲が増加することがありますが、食べる量が増えてしまうと糖尿病治療に影響が出るおそれがあります。

食事のコントロールも運動同様に不可欠であることを理解し、2つの治療法をセットで行うことが大切です。

運動をする前には準備体操

運動前には準備体操を欠かさずに行いましょう。急激に体に負担をかけるとケガにつながる可能性があるため、体を動かすことに慣れていない方は特に注意してください。

また、悪天候や猛暑・厳寒など極端な気候のときは屋外での運動を控えるなど、無理のないようにしましょう。

自分に合った運動を行う

運動を続けた結果、体への負担や違和感を覚えるのであれば一度やり方を見直してみてください。自分の病状・体調・体力に合わせて、無理なく体を動かすことが大切です。

自分が興味を持って、自然と楽しめるやり方を選ぶと良いでしょう。

自分の体に合った靴で運動する

糖尿病治療では足腰の健康維持が重要となります。運動療法では自分の足に合った靴を履いて、足腰を傷めることがないように注意しましょう。

運動を行った前後で足に違和感や変化がないのを確認し、気になるところがあればすぐに主治医に相談してください。

運動の前後に十分な水分を取りましょう

運動をして汗をかくと体から水分が失われます。小まめに水分補給をして脱水を防ぎましょう。

特に夏場は気温が高く汗をかきやすくなるため、運動の前後や必要なタイミングで水分を取ることが大切です。

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運動療法を長く続けるコツ

これまでに運動習慣のなかった方には、運動療法を長続きさせるための工夫が必要となります。

たとえ一度続かなくなってしまっても、ほかの種目に挑戦してみたり、誰かを誘ってみたりと、諦めずにチャレンジすることが大切です。

ここでは運動療法を長く続けるためのコツを紹介していきます。

運動前後の血糖値や尿糖を測り自分に合った運動を見つける

運動の前後に血糖値や尿糖を測定して運動の効果を確かめてみましょう。効果を実感することで、体調管理のモチベーションがより高まるほか、自分に適した運動方法もわかってきます。

<測定値による対処法>

○運動前
測定の結果、血糖値が高すぎる場合は運動を制限してください。空腹時血糖値が250mg/dLを目安とし、それ以上であれば運動を控えましょう。

○運動中
1型糖尿病の方は過剰な運動による低血糖に注意するとともに、ブドウ糖を持ち歩きすみやかに対処できるよう備えておきましょう。

○運動後
血糖値が低い状態で運動をすると低血糖になる場合があります。特に空腹時の早朝や食前の運動の後に起きやすい症状なので、運動のタイミングを朝食後に切り替えてみるとよいでしょう。

日常的なものから徐々に運動量を増やしていく

運動療法がなかなか続かない場合は、諦めずに日常生活のなかでできる運動から始め、少しずつ運動量を増やしていきましょう。

ちょっとした移動や家事のなかにも、体を動かすきっかけはたくさんあるものです。以下の一例を参考に、気軽に取り組んでみてください。

<気軽に取り入れられる運動>

○掃除
○犬の散歩
○エスカレーターやエレベーターを使わない
○通勤時の早歩き
○テレビを見ながら体を動かす
○買い物

体調に合わせて無理をせず目標達成を求めすぎない

急激に体に負担をかけることを防ぐためにも、運動療法では目標のステップアップは慎重に進めていきましょう。

関節痛や風邪など体調に不安を感じるときには休みを取るなど、無理をしないことが運動療法を長続きさせるコツです。

運動が楽しくなってきたとしても、やりすぎに注意することも大切です。

運動に対する正しい知識を持つ

運動にはメリットだけでなくデメリットもあります。負荷をかけすぎると体を痛めるおそれもあることを理解しておきましょう。

自分に合った運動方法を選び、適切な運動量や強度の範囲を守り、あくまで健康維持のために運動を続けられるよう、正しい知識を身に着けておきましょう。

街探検やお店探しなど趣味と運動を一緒にできるようにする

ウォーキングのコースを変えるだけでも新しい気分で楽しめるようになるものです。同じコースに飽きてしまったときは、あえて別の道を選ぶなど工夫してみましょう。

街探検のような気持ちで知らないお店を探してみるのも良いでしょう。運動以外の目的をウォーキングに取り入れることも長く続けるポイントの1つです。

まとめ

運動療法は食事療法や薬物療法と合わせて行うことで糖尿病改善の効果が期待されます。

有酸素運動と筋力トレーニングをバランスよく行うことを意識しながら、まずは無理なく始められる運動を日常生活に取り入れていきましょう。

運動療法は健康維持のためにさまざまなメリットがある反面、注意すべきポイントもあります。主治医の指導のもと、体や症状に合わせた適切な運動を心がけてください。

 

 

監修:院長 坂本貞範

 

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