糖尿病で血管はどうなるか|血管障害が引き起こす合併症

2021.08.20

カテゴリー: 糖尿病

「糖尿病予備軍と診断されたけど、糖尿病がどういうものかはっきりしない」「糖尿病を予防したくてもどうやって予防したら良いかわからない」国民病と呼ばれる糖尿病ですが、詳しいことまでわかっているという人は少ないのではないでしょうか。

糖尿病は、「甘いものを食べ過ぎることで発症する」」「尿の病気」というイメージがあるかもしれませんが、実は糖尿病は血管の病気です。

この記事では、糖尿病がどういうものなのか、また血管の病気と呼ばれる理由や糖尿病の予防法について説明していきます。

糖尿病の血管への影響

糖尿病は高血糖状態が続く病気です。高血糖状態が続くと血管を傷つけます。このとき、末梢の細い血管だけでなく、心臓などの太い血管も傷つけます。傷ついた血管の壁は次第に硬くなり、血管内が細くなったり詰まったりします。太い血管が、傷つき、血流が悪くなったり血管が詰まることを動脈硬化といいます。

糖尿病で血管障害が起こるメカニズム

糖尿病による血管障害のことを糖尿病性血管障害といいます。では、なぜ糖尿病によって血管障害が起こるのでしょうか。

高血糖状態が続くと血管が傷つきます。このとき細い血管が傷つくと、毛細血管の集まる腎臓や網膜、神経などに症状が現れます。一方、太い血管が傷つくと、傷ついた場所にコレステロールなどが溜まることでプラークが生じ、動脈硬化が起こります。動脈硬化が心臓の血管で起こると心筋梗塞、脳の血管で起こると脳梗塞を引き起こすことになります。

糖尿病の原因

食事を摂るとすい臓からインスリンという血糖値を下げるホルモンが分泌されます。しかし、糖尿病患者の方はインスリンの分泌量が少ない、あるいはインスリンが作用しにくいため、血糖値が下がりません。

糖尿病は発症原因によって大きく1型糖尿病と2型糖尿病にわかれますが、一般的に「糖尿病」と呼ばれるのは2型糖尿病のことを指すことが多いです。

2型糖尿病を発症する原因には次のようなものがあります。

・体質(遺伝的要素)
・運動不足
・肥満
・食べすぎ
・ストレス

2型糖尿病は遺伝的要素と食べすぎなどの生活習慣の乱れが組み合わさることで発症するといわれています。

食べ過ぎが続くとすい臓はインスリンを過剰に分泌することになるため、疲弊してしまい、インスリンの分泌力が低下します。また、運動不足や肥満はインスリンが作用しづらくなります。これをインスリン抵抗性といいます。また、ストレスは交感神経を活発にするため、血糖値を上げるホルモンが分泌しやすくなります。

もともとインスリンの分泌力が低かったり、インスリンの効きづらい体質に上記のような生活習慣の乱れが加わることで糖尿病を発症するといわれています。

糖尿病の慢性合併症

糖尿病で血管はどうなるか|血管障害が引き起こす合併症

糖尿病は初期段階ではほとんど自覚症状がありませんが、放置するとさまざまな合併症を引き起こす可能性があります。

糖尿病による合併症は大きく次の2つにわけることができます。

・細小血管障害
・大血管障害

それぞれについて以下で詳しく見ていきます。

細小血管障害

糖尿病の合併症における細小血管障害の代表的なものは次の3つです。

・糖尿病神経障害
・糖尿病網膜症
・糖尿病性腎症

いずれも糖尿病に特有な症状のため「糖尿病の3大合併症」と呼ばれています。

それぞれどのような症状なのか解説します。

糖尿病性神経障害

糖尿病性神経障害の症状には、手足のしびれや痛み、感覚の麻痺などがあります。感覚が麻痺すると、やけどやケガをしても気付かないため、傷が治りにくく、感染症を引き起こやすくなります。最悪の場合、足の細胞が壊死し、切断することもあります。

なぜ血糖値が高い状態が続くと神経が障害されるのでしょうか。

糖尿病性神経障害の発症原因はまだはっきりとはわかっていません。一説には、血糖値が高い状態が続くことで神経細胞にソルビトールという物質が蓄積されるため神経障害が起こるといわれています。

また、糖尿病になると細い血管(細小血管)が傷つくことで血流が悪くなり、神経細胞に酸素や栄養を届けにくくなくなることも原因の1つといわれています。

糖尿病性網膜症

糖尿病性網膜症とは糖尿病によって網膜の血管が障害され、視力低下や失明を招く病気です。網膜は眼底にある薄い神経の膜のことをいい、目に入ってきた色や光を受け取り、視神経を通って能に伝達する働きがあります。

網膜には細小血管がたくさん張り巡らされており、糖尿病によってそれらの細い血管が壊されてしまうと必要な栄養や酸素が網膜に届かなくなります。網膜が酸欠状態になると、新しい血管「新生血管」を作り、酸素を補おうとします。しかし新生血管はもろいため、すぐに出血してしまいます。

出血すると新生血管の周りにかさぶたのような組織(増殖膜)ができ、網膜を引っ張るため、場合によって網膜が剥がれてしまい失明を招くことがあります。

糖尿病性腎症

糖尿病性腎症は悪化すると腎不全に陥ります。腎不全を引き起こすと人工透析を受け続けるか、腎移植を受けるしか方法はありません。血液内の老廃物は腎臓にある糸球体と呼ばれる組織で濾過され、尿と一緒に体外に排出されます。

糸球体は毛細血管の塊ですので、毛細血管が糖尿病によって傷つくことで腎臓の機能が低下してしまいます。

大血管障害

糖尿病で血管はどうなるか|血管障害が引き起こす合併症

糖尿病によって太い血管が障害される大血管障害には次のようなものがあります。

●脳梗塞
●狭心症・心筋梗塞
●閉塞性動脈疾患

それぞれ以下で詳しく見ていきましょう。

脳梗塞

脳梗塞は、脳の血管が詰まり、その先に酸素と栄養が運ばれないために脳の細胞の一部が壊死する病気です。壊死した場所によって、右半身麻痺や左半身麻痺が起きたり、言語障害や意識が薄れたりします。

脳梗塞を発症すると重い障害が残ることが多く、場合によっては死亡することもあります。

高血糖状態が続くと太い血管が傷つけられます。傷の部分にコレステロールや脂肪などでできたプラークという物質が付着します。プラークが大きくなり破裂すると、血小板が集まります。通常、血小板は傷口と結合して血栓を作ることで傷口をふさぐ働きがあります。

そのため、プラークが破裂すると、血小板はプラークの脂肪分が混ざった血栓を作り出します。血栓ができると、そこから先の組織に血液が流れなくなります。

これが脳の血管で起こると脳梗塞になります。

狭心症・心筋梗塞

心筋梗塞は心臓に栄養と酸素を運んでいる冠動脈と呼ばれる血管が詰まり、心筋細胞が壊死してしまう病気で、胸に激痛が走り、30分から数時間続くことが特徴です。

狭心症は血管が狭くなること心筋への血液の流れが悪くなることです。心筋梗塞は血管が完全に詰まった状態ですが、狭心症は血管が細くなることで発症します。狭心症はぎゅっと締め付けられるような胸の痛みが一時的に起こることが特徴です。

心筋梗塞と異なる点は、数分から15分程度で痛みが治まる点です。狭心症と心筋梗塞をまとめて虚血性心臓疾患と呼びます。

高血糖状態が続くことで心臓の血管が傷つき、傷口にプラークができることで血管が狭くなると狭心症、プラークが破裂して血栓ができ、血液の流れがふさがると心筋梗塞になります。

閉塞性動脈疾患

閉塞性動脈疾患とは足の動脈が閉塞して起きる障害です。

閉塞性動脈硬化症は、高血糖状態が続くことで足の太い血管(動脈)が傷つき、動脈硬化を起こすことで発症します。足の動脈が詰まることで足の細胞に栄養や酸素が届かなくなり、間歇性跛行などが起きます。

間歇性跛行とは、歩行など足に負担をかけると痛みやしびれ、冷えを感じるが、少し休むと症状が軽減するというものです。進行すると安静時にも痛みが生じるようになり、さらに痛みで歩行が困難となって壊疽を起こし、最悪の場合は足を切断することがあります。

糖尿病の治療方法

糖尿病で血管はどうなるか|血管障害が引き起こす合併症

ここまで説明したように、糖尿病は放置すると人工透析や足の切断など、恐ろしい合併症を引き起こす可能性があります。したがって、糖尿病は初期段階で治療を行うことが大切になります。

糖尿病の治療は以下の3つによる血糖コントロールが基本になります。

・食事療法
・運動療法
・薬物療法

最初は食事療法と運動療法によって血糖コントロールを行います。食事療法といっても食べてはいけないものがあるわけではなく、医師の指示エネルギーの範囲内で栄養バランスの良い食事を規則正しく摂ることが基本です。

食事療法や運動療法を行ても血糖値の改善が見られない場合は経口血糖降下薬やインスリン注射などの薬を使って血糖値をコントロールすることになります。薬物療法を取り入れる場合も食事療法と運動療法は継続して行います。

詳しくはこちら
糖尿病の症状と治療方法|神経障害の療法についても解説

糖尿病の予防

糖尿病は発症してしまうと完治することはなく、血糖コントロールを続けなければなりません。そのため糖尿病予備軍と診断されたら糖尿病の予防に取り組むことが大切です。

2型糖尿病は遺伝的要素と生活習慣が組み合わさることで発症するといわれているため、以下のような生活習慣の改善に取り組むことが糖尿病の予防につながります。

・食べすぎを防ぐ
・バランスよく食べる
・運動習慣をつける

糖尿病の予防では栄養のバランスの良い食事を規則正しく食べ、適度な運動の習慣をつけることが基本になります。

一方、ストレスも糖尿病の原因といわれています。そのため、厳格な食事管理やハードな運動は逆効果となることがあるため注意が必要です。特に運動はゲーム感覚で楽しめるもののほうが長く続けやすく、おすすめです。

いずれの場合も前向きに取り組むことが継続の鍵になります。

まとめ

糖尿病の合併症や糖尿病の治療法・予防法について説明しました。

糖尿病は進行すると重い合併症を引き起こす可能性があります。さらに糖尿病は初期段階では自覚症状がほとんどないため放置してしまうことがあります。そのため、糖尿病予備軍と診断された場合は、糖尿病を発症させないために生活習慣の改善に努め、予防することを心がけることが大切です。

少しでも異変を感じたら放置せず、すぐに医師の診察を受けましょう。

 

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